ネコヤナギ・エコ工法の開発理念と改善効果
地形が急峻である我が国の河川では、河岸の防災と共に周辺住民の生命・財産を守るために、自然地形に手を加える構造物に寄らざるを得ない場所が多く、コンクリートによる護岸が作られて来ています。
しかし、これら護岸は、生物にとって極めて重要な機能をもっている水辺環境が失われることや単調な河岸景観となることと、水辺に集う人々の安全性等への問題があり、その改善と保全を図るための技術開発が必要とされていました。
「ネコヤナギによる既設のコンクリート護岸における水辺の環境改善工法」(略称ネコヤナギ・エコ工法)は、この要請に応えるべく開発を行ったものであり、既設のコンクリート護岸に植栽を施す技術としてはオンリーワンと言える工法です。
その開発理念と改善効果の関連は図―1の通りであり、以下順を追って説明します。
図-1:ネコヤナギ・エコ工法の開発に関する基本理念と改善機能 |
既設の護岸に植栽を施すことに対しては、河川技術者から「護岸の安全性は大丈夫?」との声が返って来ますが、開発に際しては『護岸の保有機能を損なわない構造』を最重要の基本理念としており、以下のような検討と確認を行っております。
河岸には多くの種類のヤナギが自生していますが、それらの中から以下の理由で「ネコヤナギ」を採用しています。
1.低木(樹高3m程度)であること:
幹径や根っこが細く、護岸構造にはまったく影響を及ぼさない。タチヤナギ等の高木となる樹種は利用していない。
写-1: 成木の標準樹形 |
写-2: 細い幹径で多枝性 |
写-3: 裏込め部の細根(ヒゲ根) |
2.多枝性・柔軟性で強度・耐力に富むこと:
倒伏性のため洪水時流水阻害は生じない。洪水時の流水や流下物に対する抵抗力大、安全施設としての利用可能。
写-4: 洪水時の倒伏・起立性 |
写-5: 安全対策(滑落時の補足・捕まり物・ロープ代わり) |
3.挿し木での植栽が可能なこと:
容易に萌芽して成長し、損傷に対する回復力も旺盛。
写-6: 親木の同定と挿し穂選定 |
写-7: 挿し穂の根付け |
写-8: 萌芽と成長状況 |
4.広く自生し、岩盤の亀裂や護岸目地等過酷な場所でも活着していること:
護岸の植栽孔内や裏込め部に対して根張りが可能であり、本工法の設定条件に適応する。
5.特性である水中根は、水際の生態系回復・創出に多大な効果があること
写-9:目地の自生例 | 写-10:軟岩の自生例 | 写-11: 枝に発生する水中根 |
写-12:護岸への穿孔機器 |
植栽構造は図-2を基本としており、これら構造体を形成する材料は可能な限り
天然素材の利用としています。主な部材は、写-13に示すφ65mm程度の真竹を利用したポット、ネコヤナギの挿し穂(1~2本:写-6参照)、挿し穂の植付け並びに間詰め用の用土(粒径調整の砂利)、緊結用の麻紐、固定用竹串等であり、植栽後には自然回帰する環境保全型としています。
また、竹ポットには側面に3本の斜めスリット、底面に6個のキリ孔を設けてあり、水分の補給路並びにポット周囲への根張りに対応する工夫を施してあり、特許事項の1つであります。
更に、植栽の施工が厳冬期であること、傾斜している護岸面での作業であることから、取扱いが容易な機器並びに穿孔方法で、現地作業を極力省力化する植栽工法とし、経済性を図っています。
図-2:植栽孔と竹ポット構造体の挿入・固定 | 写-13:竹ポット構造体 |
基本理念に基づいて開発した工法の期待する改善効果は、自然河岸が保有している様々な機能への回復やその創出、並びにその保全としております。その機能は以下のとおりです。
- 無機質かつ単調化した護岸面の連続や乱反射等による河岸景観の修復
- 水際における陸域及び水中域における生態系の生息環境の改善や創出
- 水際に集う人々の滑落事故の予防や救命のための機能付与
- 護岸構造の保全に対する機能付与
したがって、ここでは、これら期待する改善効果が施工実績においてどの程度具現化され、評価されているのかを整理します。
現在までの施工場所は、本ホームページの【施工実績】で詳細な内容が参照出来ますが、工法開発に関わる試験施工場所5箇所、国土交通省関係で20箇所、地方自治体関係では20箇所、合計45箇所であり、これらの場所における植栽区間の総延長としては約3000m(本数は約1500本)に達しており、効果も着実に得られております。
そして、これまでの効果に対する説明は、上記の施工実績に対して目視によって確認した内容で示しておりましたが、平成25年度においては国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所において詳細な調査とその結果に対する専門家の分析並びにその評価が行われていますので、以下はその内容を中心として示します。
その調査は、川内川河川事務所の管理区間の中で、中流域に位置する鶴田地区における左・右両岸の約100m区間に対して施工されている植栽を対象に行われている業務であり、4年を経過した植栽であることから繁茂状態も極めて良好な状態にあり、上記❶~❸に関わる調査と分析並びにその評価を行う対象としては十分な植栽となっています。
なお、以下に示す図表等の出典は、「川内川におけるネコヤナギ植栽護岸のモニタリング調査結果について:川内川河川事務所調査課 宗 琢万、藤田 薫、林田 邦宏」(平成26年度「九州国土交通研究会」発表論文)を参考としており、以下では「H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課」と略称します。
これまで施工が行われた植栽場所は、ほぼ順調に活着し成長しております。川内川中流域における施工場所は、周辺に「水辺の楽校」や「健康ふれあいセンター あび~る館」、親水施設やボート練習施設が存在しており、夏季には「鶴田龍船祭」や「ほたる観賞会
等のイベントが開催され、多くの人々が集う地域であります。
このような現地環境から護岸水辺の修景を目的として植栽が施工されておりますが、植栽前と植栽後4年を経過した状態は写-14及び写-15に示すとおりであり、水辺にはグリーンベルトが形成されると共に、護岸面の約50%程度が緑に覆われています。
このような状況に対して周辺住民を含めた多くの関係者(漁協・観光・行政等)の方々に対してヒヤリング調査が行われていますが、その結果は表-1のようになっています。
これらの結果から、ネコヤナギの植栽による景観修復効果は良好であるとの高い評価が得られていると共に、ホタルや魚が増えたとの声が寄せられています。
写-14: 施工前の護岸面の状況(川内川) |
写-15: 植栽後4年経過時の緑化状況 |
質問 | 全体(%) | 川へよく・たまに行く(%) | 増減 |
---|---|---|---|
Q1.景観がよくなっていると思う | 68.7 | 69.8 | +1.1 |
Q2.護岸の水際にある「ネコヤナギ」は自然に生えて来たように見える | 81.8 | 84.9 | +3.1 |
Q3.魚や川の生き物にとって環境がよくなったと思う | 65.7 | 67.9 | +2.2 |
Q4.魚は増えていると思う | 47.5 | 49.1 | +1.6 |
Q5.「ネコヤナギ」を植えた護岸の方が川に落ちた時に怪我をしにくいと思う | 63.6 | 69.8 | +6.2 |
Q6.この場所以外の護岸にも「ネコヤナギ」を植えた方が良いと思う | 67.7 | 69.8 | +2.1 |
Q7.「ネコヤナギ」が植えられる前にホタルは飛んでいたと思う | 17.2 | 22.6 | +5.4 |
Q8.「ネコヤナギ」の周りにホタルが飛んでいるのを見たことがある | 24.2 | 34.0 | +9.8 |
Q9.ここ2〜3年でこの場所のホタルが増えたと感じる | 27.3 | 35.8 | +8.5 |
Q10.この護岸に「ネコヤナギ」を植えたことでホタルに良い影響があったと思う | 51.5 | 62.3 | +10.8 |
注)全体:アンケート対象者全員/川へよく・たまに行く:植栽場所周辺によく行く方のみを抽出した場合 |
表-1:護岸の修景等に対するアンケート結果《出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
また、ネコヤナギは、以前には河岸に広く自生していた樹種でありましたが、最近では自然植生によるネコヤナギは減少傾向にあり、まったく見当たらない河川もあります。
したがって、自然植生のネコヤナギが減少している河川に対しては、ネコヤナギによる植栽施工を推進することによってその増加が図られ、それらの種子伝播によってネコヤナギの回復も期待出来ます。
「ヤナギの下にドジョウ」の諺の源と思われるネコヤナギは、河岸に群生して緑陰を形成すると共に、水中に伸びた枝に水中根を発生させる特性を有しており、水際の陸域並びに水中域の両面における生態系の生息環境に重要な役目を果たしています。
前載の写―15に示すようにネコヤナギの植栽による枝葉が十分な葉張りを成し、水際の水表面のカバー範囲が広くなる(魚付き林状態)と、その周辺における生態系環境は大きく変化します。多くの陸生昆虫類が蝟集し、それらを餌とする鳥類、落下昆虫を餌とする魚類、アメンボ類の採餌場、ホタルの産卵場所となります。
陸生付着昆虫類については、「ネコヤナギの植栽区間」と「自然植生の区間」それぞれについて夏・秋期で採捕調査が行われています。ここでは、各観測点毎の個体数・種類数の比較図を示しますと図-3(夏期)及び図-4(秋期)のようになります。
図-3:夏期の区間別の昆虫数(上)/図-4:秋期の区間別の昆虫数(下) |
これらの結果によると、護岸へ植栽したネコヤナギ区間は、自然植生のネコヤナギ群落と種類・個体数共に大きな差は生じておらず、自然植生区間と同様のハビタットを形成すると評価されています。
《図-3・4/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
写-16:緑陰に集まるアメンボ |
水表面昆虫であるアメンボ類(写-16参照)の調査は、「ネコヤナギの植栽されている区間」と「植栽されていない区間」の両区間で行われていますが、ケシカタビロアメンボに対する調査結果は図-5に示すように整理されています。なお、ナミアメンボについても行われていますが、ここでは省略します。
図-5:ケシカタビロアメンボの確認個体数 |
これらの結果から、水辺における緑陰創出は極めて大きな効果が得られており、種数・個体数共に「ネコヤナギの植栽区間」が「植栽されていない区間」よりも明らかに多く、植栽によるカバー形成の影響が大きいと評価されています。
《図-5/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
写-17:採捕されたホタルの幼虫 |
写-18:ホタル水路の整備事例 |
初夏の風情の1つに数えられているホタル関連については、川内川の調査の場合においても、水中根の発生と共に多量の藻類の付着と、それを採餌するカワニナも多く生息しており、ホタルの幼虫(写-17参照)も採捕されています。また、周辺住民へのヒヤリングでもホタルが増加しているとの声も寄せられています(前記表-1参照)。
この場所以外にも、ホタルの生息環境の改善によって乱舞する数の増加が確認されている場所もあり、写-18に示すような新たな生息環境創りも始められている場所では、実際にホタルの出現も確認されています。
以上のような結果から、ネコヤナギの植栽による緑陰形成は、ホタルの良好な生息環境を創出していると評価されています。
ネコヤナギの緑陰形成による水辺は、ハビタットの形成や水中根の発生に伴って様々な生物の生息環境となり、それらを採餌する大小の魚類が集まり、また、それら魚類を餌とする鳥類が集まります。
川内川における調査では、「ネコヤナギの植栽区間」と「植栽無しの区間」の両方の護岸状態に対して定点観測が行われていますが、写-19に示すカイツブリや写-20のカワセミの採餌行動が図-6~図-7に示すように確認されております。
写-19:緑陰周辺のカイツブリ | 写-20:魚を狙うカワセミ |
図-6:カイツブリの採餌行動(潜水) | 図-7:カワセミの採餌行動(飛込み) |
以上の結果から、ネコヤナギの植栽による水辺の改善効果は、食物連鎖環境を提供していると評価されています。
《図-6・7、写-19・20/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
水中域においては、写-21に示すような水辺における緑陰形成と共に、写-22に示すような水中根の発生と、更にはネコヤナギの特性の1つである年間を通じて生じる落葉によって予想以上の相乗効果が得られています。
なお、これらの相乗効果は、ネコヤナギの植栽場所が川内川のような良好な環境(水衝部でない、水位変動が小さい、流速は1.5m/sec以下、きれいな水等)で、植栽の繁茂状態も良好であることが必要条件であります。以下に、順を追って整理します。
写-21:水辺の緑陰の形成事例 (大分県豊後高田市真玉川:県管理) |
写-22:水中根の発生事例 (薩摩川内市川内川:国管理) |
ネコヤナギの植栽が2年を経過した段階で枝が水中に伸びると、その枝先には水中根が発生します。その水中根がある程度の塊状を成してくると、その根からの分泌物によって流水中の有機物や藻類が付着します。
これらの付着量については、これまでの実績における目視調査によりある程度は把握されておりましたが、今回の川内川での詳細調査によって想像以上の付着量の多さが存在することが判明しています。
川内川における調査では、その量は図-8に示すような成果が報告されています。
その量は、河床礫1㎡に付着している藻類量(クロロフィルaと呼称)と比較した換算値によると約25㎡以上の河床面積分であり、同様に有機物量(強熱減量と呼称)について比較した換算値では約35㎡以上の河床面積に相当することが確認されています。
また、年間を通じて発生している落葉(ネコヤナギの特性の1つ)も、有機物の生成に大きく影響する役目を担っています。
このように、ネコヤナギの特性である水中根は、多量の餌を供給する構成要素となっていると評価されています。
図-8:1箇所の植栽に発生する水中根に付着している藻類と有機物量を河床礫面積1㎡と比較換算したイメージ図 |
《図-8/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
水中に伸長した枝に発生する水中根は、塊状に成長するに従い付着物量も多くなり、蝟集する水生生物も多様化します。
写-23は、水中根に蝟集しているカワニナの状況であり、付着している藻類を採餌する様子が観察出来ますが、これらはホタルの幼虫の餌となります。
図-9は、川内川における水生生物の調査結果について、出現種数と出現個体数の季別状況を「ネコヤナギの植栽区間」と「植栽無しの区間」で比較して示しております。なお、種数や個体数の詳細なデータは省略しますが、主な種数を写-24に示します。
これらの結果から、いずれの場合も植栽区間が突出しており、植栽を行うことは水生生物の生息環境にも良い影響があると評価されています。
写-23:水中根に蝟集するカワニナ(○内) | 図-9:水生生物の種数と個体数の結果 |
写-24:川内川の調査で採捕されている水生生物の主な種数 |
《写-23・24、図-9/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
写-25は、川内川における緑陰直下の水中根周辺の状況ですが、多くの仔魚・稚魚の生息環境となっていることが確認できます。更に、写-26はそれら小魚を捕食するために集まっている大きめの魚類であります(水中根周辺に集まるギギの群れ(貴重種に属する:大分県中津市西谷川で撮影)。
写-25:水中根周辺の仔魚・稚魚の状況 | 写-26:水中根周辺の大型魚類(ギギ)の群れ |
また、図-10は、川内川における調査の中で「ネコヤナギ植栽区間」と「植栽無しの区
間」に対する夜間の潜水調査結果であり、図-11は、同様の区間種別において昼間における採捕数(電気ショッカー利用)を季別に示した結果であります。
ここでも詳細なデータは省略しますが、主な捕獲魚類は写-27のとおりであり、最近の漁業資源に対する報道を賑わしているウナギも捕獲されております。
これらの結果によると、ネコヤナギ植栽区間はいずれの場合も種数、個体数ともに採捕量が多いことが判ります。
これらの結果から、水中根周辺は有機物や藻類を餌とする水生生物の生息場所となり、また、それらを餌として集まる大小様々な魚類の生息環境や避難場所となって、陸域と水中域を通じた食物連鎖体系が形成されています。このようにネコヤナギの植栽は、既設護岸水辺における生態系の生息環境を多方面から改善し、魚類の生息に正の影響を与えると評価されています。
図-10:夜間調査での種数・個体数結果 | 図-11:昼間調査での種数・個体数結果 |
写-27:川内川の調査で採捕されている主な種数 |
《図-10・11、写-27/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
河川における滑落事故は、その周辺環境が安らぎを醸す季節となり、人々が川辺に集う機会が多くなるに従い報道量が多くなりますが、それらを予防・防止するための安全対策にも十分な配慮を図る必要があります。ここで従来の安全対策を反省してみます。
- 従来の施設は救命が主であり、予防対策の面に欠けていること
- その設置場所が一般の人に判り難く(特に細いロープ)、また、設置場所が
限定されているので救命範囲が小さいこと - 取扱いが一般の人が不慣れであり、必要とする時に対応が遅れ易いこと
- 市販品で劣化しやすい材料構成であり、施設管理上に課題があること
これに対してネコヤナギの植栽による場合では、以下のような利点があります。
- 護岸の位置が告知出来ることから、滑落予防にも効果があること
- 万一の転落時においては、ネコヤナギの枝葉による人体の捕捉や緩衝効果と、
滑落後の捕まり物や這い上がり時のロープ代りとして利用出来ること - 植栽区間全体が安全対策として広い範囲で活用出来、限定されないこと
- 天然素材の構成であることから、管理手間が不要であること
したがって、これらに対する検証として、写―28~写-30に示すような実物の人による転落試験と、写-31及び図-12に示す各種の幹径に対する引張り試験によってロープ代りとしての強度確認が行われております。
これらの成果から、護岸面の滑落については人体の捕捉状態や緩衝具合も良好であることと、枝径φ6mmでも100kg以上の引張り強度が確認されており、安全対策施設としての機能も十分に保有していると評価されております。
写-28:人体の補足効果 | 写-29:捕まり物 | 写-30:這上り時ロープ代り |
図-12:ネコヤナギの枝径と引張強度の関係 | 写-31:引張り試験状況 |
《図-12、写-31/出典:H26九州国土交通研究会:発表論文、川内川河川事務所調査課》
写-32 洪水時の倒伏状態 |
近年における河川構造物計画では、構築物における流速を出来る限り低減させるために、護岸表面の祖度係数を大きくする工夫を施すよう指導が成されております。
ネコヤナギの植栽を施工することは、その工夫に整合しており、容易にかつ安価に対応可能であります。
写真-32は、洪水時におけるネコヤナギ植栽の倒伏状態でありますが、河川断面が阻害されることなく護岸表面の祖度係数の増加が図れますし、洪水後は直ちに起立して緑陰状態となります。
また、図13及び図-14は、岩岳川(福岡県豊前市内に位置する)の施工実績における護岸周辺の流速測定結果(2種類の護岸形式で図-13はブロック積護岸、 図-14は玉石積護岸の場合)ですが、護岸基部からの距離並びに水中根の影響度に応じて様々に変化しています。即ち、水中根の影響を受けない範囲においては、緩やかに増加しているのに対して、水中根の影響を受けている範囲については、護岸基部から0.4m付近(水中根の根張り部に当る)でその傾きが大きく、流速は急減しています。
これらの結果から、以下のような点についてその効果が評価されております。
- 流速の小さい範囲の場所は、仔魚や稚魚等の小さい魚類と水生生物の生息域となり、大きくなる範囲は大きめの魚類の生息域になります。また、洪水時においては、水中根がこれら魚類の避難場所になります。即ち、ネコヤナギ枝葉の水中への伸長や水中根の発生による流況の変化は、水中域の生態系生息環境の改善に大きな影響を与えると評価されています
- 洪水時でのネコヤナギ植栽の倒伏状態並びに流速の低減は、流下物(特に砂礫)による護岸表面の摩耗作用を軽減します
- 護岸周辺の流速の低減は、その基礎部の洗掘防止の効果も期待出来ます
図-13:ブロック積護岸における流速測定結果 |
図-14:玉石積護岸における流速測定結果 |
写-33:護岸の被災箇所と復旧状況(撮影2010年2月19日) |
本節の内容は、異なる護岸構造並びに緑化方法の考え方によって、護岸面やその水辺の環境改善にどのような差異があるのかを検証した事例であり、熊本県八代振興局の協力による試験施工であります。
施工場所は、写―33に示す八代市二見川の左岸側護岸の災害復旧箇所であり、上流側に構築されているような既設護岸(コンクリートブロック積)が被災したために、下流側には新規の環境保全型ブロック積護岸によって復旧工事が行われている場所であります。
このような護岸構成の場所であり、上流側の災害を受けなかった護岸に対して「ネコヤナギ・エコ工法」を適用した試験植栽を5本施工(2010年2月)し、下流側に施工されている環境保全型ブロック積護岸との環境改善具合の比較を行っています。
写-34~写-35は、施工後3年目の繁茂状況と水中根の発生状況を示していますが、これらを比較すると以下のようになります。
◎「ネコヤナギ・エコ工法」を利用した上流側の既設護岸の場合では、護岸面の約50%以上が緑で覆われ、水辺のカバーも広範囲となっており、極めて良好な魚付き林状態となっております。
環境保全型構造による下流側護岸は、3年目でも植生の付着種・生育量共に少なく、その目的の達成度は現状では評価出来ない程度であり、長期間の経過が必要であると思われます。
以下のような結果から、「ネコヤナギ・エコ工法」の利用は、護岸水辺の修景
と共に、生態系環境の改善効果が早期に発揮されると評価出来ます。
写ー34:ネコヤナギ植栽箇所(上流側既設護岸)と 環境型護岸(下流)植生状況の比較(撮影2012年5月28日) |
写-35:発生している水中根 |